住み慣れた土地に住む単身の女性の自邸の建設とともに周辺環境と何らかの関わりを築きたいという思いから生まれたプロジェクトを紹介します。このプロジェクトを手がけた建築家の松浦荘太氏は敷地境界線を越えて複数の用途とユニークな地域との関係をクライントの住宅及び敷地を軸に提案しました。ではさっそく見てみましょう。
隣には保育園。この地に馴染み深い一人で暮らすクライアントは自分の所有する敷地の一部と住宅の1階部分を保育園のために解放したいと希望しました。ライトグレーのファサードにナチュラルな木製のドアを組み合わせたシンプルなデザインで、まさか保育園のためのスペースがあると思えないくらいミニマルな佇まいですね。
木製の引き戸を開けると1階は外部として使われる土間空間が広がります。この土間空間、実は3つの高さのピロティによって構成されており、園庭と連続した形で多様な空間を提供しています。
壁柱で構成される内部のような曖昧な外部空間が高さを変えながら外へと続き、子どもたちは雨の日でも屋根のあるピロティでも遊べるのでとても便利ですね。一番高い壁柱は1.5層分あり、広がりのあるダイナミックな中間領域を生み出しています。
隣の保育園と敷地が繋がった裏庭です。上階の住居スペースはスキップフロアのある空間構成をとっているため、下部の空いた空間が子どもたちのための高さの異なるピロティとして生まれました。内部空間からも異なるレベルから外部の様子を伺うことができ、地域との緩やかな関係が生まれます。
階段を上がるとクライアントのためのワンルーム空間が広がります。壁付けのキッチンにも木の素材を採用したナチュラル感いっぱいのLDKですね。床は大きなタイルのような素材を使っています。同じく木製でしょうか?階段やダイニングセットともぴったりの色合いですね。奥にはピロティの最高部に当たる半階上がったロフト空間を併設。高さの異なる大きな窓が周囲に対して開放的に設けられ、明るい室内が気分を上げてくれます。
寝室として機能するロフトからはなんと梯子を使って屋上テラスへアクセスできるんです。シンプルな構成でありながら有効な空間利用や多様性を持った設計によって、地域のために自宅の一部を開放するというアイデア、それはその地域への愛着や住民との関わりを考えた時、生まれる新しい一人暮らしの形なのかもしれません。子どもたちのための空間、つまり未来を見据えた建築を介してのオルタナティブな貢献と言えるでしょう。